「猫の手も借りたい」書類選考、AIに任せていいのか
Web制作会社で働いていると、人手不足のたびに採用担当が回ってくる。今回はエンジニア職の中途採用で、書類選考を任された。応募が30件近く来ると、職務経歴書を1件ずつ丁寧に読むだけで半日仕事になる。
「ChatGPTやClaudeに読ませて、ざっくり優先順位をつけてもらえないか」と思ったのは、たぶん自分だけではないはずだ。実際、周りのAI活用が進んでいる知人にも同じことをやっている人がいた。
ただ、実際に試してみたら「これはそのまま使ってはいけない」とはっきり分かる落とし穴があった。この記事では、実際にやった検証の中身と、そこから決めた「一次選考でAIに任せていい部分・任せてはいけない部分」を、パターン別に整理する。読み終えたときに、自分の職場でどこまでAIに任せてよいか判断できる状態を目指す。
実際にやってみた
まず何も考えずに丸投げしてみた
最初は単純に、応募者の職務経歴(実在の応募者ではなく、社内でよくあるパターンを一般化したサンプルで検証した)をテキスト化し、「募集要件に照らして通過させるべき順に並べてください」とAIに投げてみた。
出てきた結果は、理由付けも含めてもっともらしく、一見「これは使える」と感じた。実際、必須スキルの有無を拾い上げる精度自体は悪くなかった。
同じ候補者データの「並べる順番」だけを変えて再度読ませてみた
ただ、念のため検証してみることにした。全く同じ5人分のサンプルを、並べる順番だけシャッフルして再度読ませたのだ。
結果、上位に来る人と下位に来る人が、入れ替えるたびに変わった。内容は一字一句同じデータなのに、である。
TOI
並べる順番を変えただけで評価が逆転するなら、それはもう「判断」と呼んでいいものなのか怪しくなってきた
後で調べて知ったが、生成AIが「先に提示された情報を重視しやすい」という順序バイアスは、複数の研究でも指摘されているらしい。自分の手元の検証結果は、それを裏付ける形になった。
「学歴・会社名」に引っ張られている疑惑も試した
もう一つ気になったので、経験年数・スキルセット・実績の内容はすべて同じにしたまま、所属していた企業名だけを「聞き覚えのある大手」と「無名の中小企業」に変えた2パターンのサンプルを作って読ませてみた。
結果は、中身が同じでも所属企業名によって評価コメントの熱量が明確に変わった。悪意があるわけではなく、AIが学習データの中にある「大手出身者は優秀」という統計的な相関を、そのまま個別の評価に持ち込んでしまっている状態だと感じた。
これは自分がミスに気づける検証だったからよかったが、気づかずに運用していたら、実力があるのに書類だけで落としていた候補者がいたかもしれない。
結論: AIに任せていい部分・任せてはいけない部分
検証した結果、悩みは一つではなく状況によって分岐することが分かった。それぞれのパターンで結論を出す。
パターンA: 必須要件の機械的フィルタリング → 任せてよい
「必要な資格を持っているか」「経験年数が条件を満たすか」「勤務地の希望が合うか」のような、Yes/Noで機械的に判定できる項目は、AIに任せて問題ない。ここには順序バイアスも属性バイアスも入り込む余地が小さい。
パターンB: 応募者間の優先順位付け → 任せてはいけない
複数人を比較して「この人を優先すべき」と順位をつける工程は、今回の検証の通りAI単体に任せるべきではない。同じ情報でも読ませる順番や、書類に書かれた会社名・学歴だけで結論が変わる以上、それを最終判断の根拠にするのは危険すぎる。
パターンC: 質問リストや評価コメントのたたき台作成 → 任せてよい
面接で確認すべき質問リストの下書きや、選考結果を伝える文面のたたき台は、最終的に人間がチェックする前提であれば任せてよい。ここは以前の記事でも触れた「対外的な最終アウトプットには必ず人間の目を挟む」という原則がそのまま当てはまる。

実際に運用している「安全な使い方」の手順
検証を踏まえて、今は書類選考でAIを使うときに次の手順を固定している。
- 必須要件を先に箇条書きにする: 資格・経験年数・勤務条件など、Yes/Noで判定できる項目だけをリスト化する
- AIには「順位付け」ではなく「要件を満たすかどうかの事実整理」だけをさせる: 「優先順位をつけて」ではなく「各要件を満たしているか、書類のどこに根拠があるかを教えて」と依頼する
- 優先順位そのものは人間が複数人で決める: 必須要件を通過した人の中で誰を優先するかは、必ず人間の目で、できれば1人でなく複数人で判断する
- 定期的に「順番だけ変えたテスト」をやる: 同じサンプルを順番だけ変えて読ませ、結果が変わらないか年に数回チェックする。変わるようなら、その工程はまだAIに任せる段階ではないと判断する
TOI
「便利そうだから」で丸投げする前に、一度は自分で崩してみる検証をやったほうがいい
書類選考に限らず、複数の対象を比較して優先順位をつけるタイプの業務は、今回と同じ落とし穴がある可能性が高い。相見積もりの比較や、複数案の優劣判断なども、一度は「順番を変えても結論が変わらないか」を試してみる価値がある。
まとめ: 書類選考でAIを使う前に確認すること
- 必須要件のYes/No判定はAIに任せてよい。ここは順序バイアスや属性バイアスの影響を受けにくい
- 応募者間の優先順位付けはAI単体に任せない。同じ情報でも読む順番や書類の書き方だけで結論が変わることが、実際の検証で確認できた
- 任せる前に、同じサンプルの順番を入れ替えて結果が変わらないか、自分で一度崩してみる
- 最終的な優先順位・合否判断は、必ず人間が、できれば複数人で決める
「AIに読ませれば早い」で終わらせず、一度は自分の手で検証してみることをおすすめする。崩してみて初めて、どこまで任せていいかが見えてくる。



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