Web制作の仕事をしていると、キックオフミーティングの後に必ずやってくる作業がある。クライアントとのヒアリングで取ったメモを、要件定義書という「形」に整える作業だ。箇条書きのメモを眺めながら、「ページ構成」「必須機能」「非機能要件」「スケジュール」といった項目に振り分け、抜けている質問がないか確認し、社内の見積り担当や協力会社に渡せる状態まで持っていく。ヒアリング自体は1時間で終わっても、要件定義書にまとめる作業は毎回2〜3時間かかっていた。
結論から言うと、ヒアリングメモをChatGPTに読ませて要件定義書の下書きを作らせるやり方は、項目への振り分けと「聞き漏らしている質問」の洗い出しにはかなり使えた。ただし、出てきた要件のうち「何を優先して確認・実装すべきか」の判断は任せきれず、そこは結局自分で並べ替えることになった。今日はその境界線と、実際に使ったプロンプトを書いておく。
何に困っていたか
ヒアリングメモから要件定義書を作る作業は、単なる清書ではない。クライアントは業務の言葉で話すので、「請求書をボタン一つで出したい」という発言を、「PDF出力機能」「テンプレート管理機能」「権限設定」のように、制作側が扱える要件の単位に分解しなおす必要がある。この分解作業に時間がかかるうえ、クライアントが話していない「決めていないと後で揉める項目」を先回りして質問リストに足すのが、経験の浅いディレクターほど抜けやすいポイントだった。
もう一つの悩みは、要件の粒度がバラバラなメモから、優先順位をつけて整理し直す作業だ。「絶対に必要」「あれば嬉しい」「今回は見送り」を分けないまま提出すると、見積り担当が全部を「必須」として見積もってしまい、後から金額が膨らんで揉めることが何度かあった。
TOI
ヒアリングの録音を聞き直しながらメモを整理するだけで、気づいたら1時間経っていることがよくあった。
試したこと:ヒアリングメモをChatGPTに要件定義書の型に振り分けさせる
2026年8月時点のChatGPTには、ヒアリング音声から直接要件定義書を作る専用機能はまだない。今回は費用をかけない範囲で、ヒアリング中に取った箇条書きメモ(テキスト)をそのままChatGPTのチャットに貼り付け、要件定義書のフォーマットに整理させるやり方を試した。
使ったプロンプト
以下はWeb制作会社が新規サイト制作のキックオフヒアリングで取った
箇条書きメモです。このメモをもとに、要件定義書の下書きを
次の項目で整理してください。
1. サイトの目的・ゴール
2. 必須機能(メモに明記されているもの)
3. ページ構成の想定
4. 非機能要件(想定アクセス数、更新頻度、セキュリティなど、
メモに記載があれば)
5. メモから読み取れる「決まっていないが、今後の制作で
必ず確認が必要な項目」のリスト
※メモに書かれていないことを勝手に補って要件にしないでください。
不明な点は「要確認」として明記してください。
最後の「メモに書かれていないことを勝手に補わないでください」という一文が肝だった。これを入れずに試したところ、メモに存在しない機能(会員登録機能など)をChatGPTが「一般的なサイトによくあるもの」として要件に紛れ込ませてしまい、危うくそのままクライアントに送りそうになったことがある。
実際の出力例
ある店舗紹介サイトのリニューアル案件のメモでは、次のような下書きが返ってきた。
- サイトの目的:既存店舗の認知拡大、予約導線の強化
- 必須機能:予約フォーム、Googleマップ埋め込み、スマホ対応
- ページ構成想定:トップ、店舗紹介、メニュー、アクセス、予約
- 非機能要件:要確認(想定アクセス数の言及なし)
- 要確認リスト:「予約フォームの通知先メールアドレス」「既存の口コミ掲載の可否」「更新作業を制作会社に依頼し続けるか、クライアント自身で行うか」
「要確認リスト」の3項目のうち、実は自分のヒアリングメモの段階でも聞き漏らしていた項目が1つ含まれていた。メモを読み返すだけでは気づかなかった抜けを、機械的に項目チェックしたことで拾えた形になる。
やってみて分かった良かった点
- 項目への振り分けが速い:バラバラのメモを「目的」「機能」「ページ構成」に仕分ける単純作業が数分で終わり、清書時間がかなり短縮できた
- 聞き漏らしの発見に強い:「要件定義書のテンプレート項目」と「実際のメモ」を機械的に突き合わせるので、人間が読み飛ばしがちな抜けに気づきやすい
- 「要確認」のラベル付けで、思い込みでの記入を防げる:メモにない情報を要件として書いてしまうミスが減った
TOI
「書かれていないことを勝手に補わない」という一文を入れるだけで安心して使える範囲が変わるのは、正直意外だった。
やってみて分かった限界点
一方で、次の2つは結局自分でやり直すことになった。
1. 要件の優先順位づけは任せられない
ChatGPTが出す要件のリストは「メモに書いてあるかどうか」でしか並んでおらず、「今回の予算感なら何を削るべきか」「クライアントが本当にこだわっているのはどれか」といった判断は入っていない。ヒアリング中の話し方や間、声のトーンから拾った「実はここが一番大事らしい」という感触は、テキストメモには残っていないので、当然AIにも分からない。ここは自分の記憶とメモを照らし合わせながら手直ししている。
2. 「決めていないと後で揉める項目」の勘所はメモの外にある
要件定義書の下書きは、あくまで渡したメモの範囲でしか「要確認」を出してくれない。過去に炎上した案件の経験から「このタイプの案件は著作権周りの取り決めで揉めやすい」といった、メモに一切登場しない領域の質問を先回りして足すのは、結局自分の経験値に頼るしかなかった。
パターン別にどう運用しているか
今は次のような分担で落ち着いている。
- メモの項目振り分け・要件のテンプレート化:ChatGPTにヒアリングメモを読ませて下書きを作らせる
- 「要確認」項目の洗い出し:ChatGPTの出力を一次チェックリストとして使い、自分のメモや記憶と突き合わせて漏れがないか確認する
- 優先順位づけと、経験則からの追加質問:必ず自分で行う。ここは要件定義書の質を左右する部分なので下書きに任せない

まとめ
- ヒアリングメモをChatGPTに読ませて要件定義書のテンプレートに振り分けさせると、清書時間の短縮と「聞き漏らしの発見」に役立つ
- コツは「メモに書かれていないことを勝手に補わないでください」と明示すること。これがないと存在しない機能を要件に紛れ込ませてしまう
- 要件の優先順位づけと、経験則からの先回り質問(炎上しやすいポイントなど)は、メモの外にある情報が必要なため人間が行う
- 次のアクションとしては、要件定義書の一次整理はChatGPTに任せて時間を作り、浮いた時間を優先順位づけとリスクの高い項目の深掘りに使う、という分担が現実的



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